「東京の都市づくり通史」とは

東京の都市づくり通史

「東京の都市づくり通史」は、東京都都市づくり公社が取り組む都市づくり支援事業の一環として、東京の都市づくりの歴史と背景を振り返り、整理して、後世に伝えるために編さんした書籍です。

「東京の都市づくり通史」発刊の報告とお礼

大原正行(公益財団法人 東京都都市づくり公社 理事長)

東京都都市づくり公社の前身である東京都新都市建設公社は、昭和36年7月、東京の急激な膨張とこれに伴う多摩地域の無秩序な都市開発に対処するため、東京都および多摩地域の市街地開発地域に指定された6市町により設立されました。
設立以来今日に至るまで、市町村から受託した土地区画整理事業、下水道事業などを実施し多摩地域の発展に寄与するとともに、東京都の木造密集地域不燃化10年プロジェクトにも参画し、東京の秩序ある発展に貢献してまいりました。
平成25年には、公益財団法人に認定され、名称を東京都都市づくり公社と改め、これまで蓄積してきた専門技術や知識、ノウハウを活用して、都民が行うまちづくり活動を支援する事業などにも積極的に取り組んでおります。
「東京の都市づくり通史」は、そうした都市づくり支援事業の一環として、東京の都市づくりの歴史と背景を振り返り、整理して、後世に伝えるために編さんされたものです。
編さんにあたっては、都市づくりの先生方、行政の立場から都市づくりに携わってきた東京都の職員のみなさま、そのほか多くの関係者のみなさまから多大なご協力をいただきました。その結果、高度な専門的諸課題を、読みやすく、分かりやすく記述した通史が完成いたしました。
この通史は、令和の時代のまちづくりを担う市民のみなさま、行政に携わる方々、専門的に研究されるみなさまにとって、心強い伴侶となってくれると信じております。ぜひ手元においてご活用くださるようお願いいたします。
通史の構成から記述、資料の取捨選択まであらゆる面にわたってご指導いただいた日本大学の岸井隆幸特任教授をはじめ、ご協力いただいたすべてのみなさまのお力がなければ、本書はこのような立派なかたちで世に出ることはありませんでした。心よりお礼を申し上げます。

ごあいさつ~通史発刊を祝して~

佐藤伸朗(東京都技監)

このたび、公益財団法人東京都都市づくり公社が「東京の都市づくり通史」を発刊されましたことに対し、心からお祝い申し上げます。
これまでの東京の都市づくりの歴史を振り返りますと、それぞれの時代における社会・経済情勢の中で、関係者の並々ならぬ努力により進められてきたことが認められます。
例えば、明治政府の威信をかけた西欧的な都市づくりとして、銀座の不燃化、高架鉄道の建設などが行われました。1919(大正8)年に都市計画法(旧法)が制定され、関東大震災を経て終戦まで、東京の都市づくりの基礎ともなる事業が展開されました。戦後は、戦災復興都市づくりに始まり、人口・産業が集中し市街地が拡大する中で、土地区画整理法が制定されるとともに、都市計画法が改正され線引きなどが導入されました。
そうした中で、多摩地域においてもスプロールの防止が必要となったことを受け、東京都と関係6市町(当時)の出捐により、都市開発を総合的に実施する専門機関として、昭和36年に現公社の前身である(財)東京都新都市建設公社が設立されました。以来、市町が行う土地区画整理事業、下水道事業を受託するなど、多摩地域の発展に多大な貢献をされてきました。さらに、道路整備と一体的に進める沿道まちづくり、東京都の木密地域不燃化10年プロジェクトにも取り組むなど、まちづくりを多面的に進めるコーディネーターとして大きな役割を担われてきました。
このような取組みを行ってきた公社が、今回、「東京都都市づくり通史編さん委員会」を立ち上げ、通史を取りまとめられたことは、これまでの都市づくりの実績やノウハウを継承していく上で、公社にとっても、東京都にとっても、大変有意義であると考えます。
東京都は、2040年代を目標年次とした「都市づくりのグランドデザイン」を2017(平成29)年9月に策定しました。この中で示した将来像の実現に向けて、これまでの歴史を踏まえつつ、東京都は公社と連携して、東京の都市づくりを一層推進していきたいと考えております。
最後に、このような充実した通史を刊行いただいた公社、ならびに編さんにご協力いただいた先生方に感謝申し上げるとともに、公社が東京都全域における都市づくりの総合支援を行う団体として一層発展されることを祈念いたします。

「東京の都市づくり通史」の発刊にあたって

岸井隆幸(東京都都市づくり通史編さん委員会委員長、日本大学理工学部土木工学科 特任教授)

大正8年(1919年)わが国最初の都市計画法が制定されてから100年、高度成長期を支えてきた昭和43年(1968年)都市計画法から50年、こうした「都市づくりの節目の時」を迎えて、東京のこれまでの「都市づくりの歩み」をしっかりと後世に残すことが必要なのではないか、という議論が始まってから7年、ようやくここに「東京の都市づくり通史(全2巻3編)」を発刊することができました。もちろん、こうした議論の裏面には、今、これまでの東京都市づくりの整理に取り掛からなければ貴重な資料が散逸してしまうのではないか、当時の状況の聞き取りや知見の取りまとめを行わなければこれまでの都市づくりの思想を継承できないのではないか、こうした危機感が含まれていました。したがって、この通史の編さん作業は、単なる歴史的な史実の記述整理にとどまるものではなく、その当時、担当者は何を考えて行動したのか、どのような想いを持って取り組んだのか、を伝えたいという気持ちを包み込んで動いていました。
結果として、お届けした第1巻第1編は「総論~時代の変化と都市づくりのあゆみ」と題して、東京の都市づくりを「通史として俯瞰するもの」として描かれており、150年を7期(前史を含む)に区分してその時期の特徴を総合的・複合的に記述しています。第1巻第2編は「年表~年表から追う都市づくり」で、年表を横に置きつつ、第1編では記述できなかった事項も含めて整理を試み、時代を追ってその当時の社会の動きと東京都市づくりのトピックを合わせて読み取れるように工夫しました。さらにこの第1巻の巻末には、東京の都市づくりを巡る様々な基礎的データを資料編として取りまとめています。また、第2巻第3編の「挑戦~東京をつくる」は、東京の都市づくりを巡る主要な政策・計画・事業を10分野43テーマに分けて取り上げ、実際に都市づくりに挑んできた先輩方に聞き取りも行い、実務者の視点に立った内容となっています。江戸から近代都市に変貌し、関東大震災・第2次世界大戦の戦災という2度にわたる悲劇を乗り越えて世界都市へと発展してきた東京。その東京を支えてきた「都市づくりの営み」を紐解き、常に顔を上げて、先を見渡し、戦ってきた先輩方がたどり着いた成果を描こうとしたのが第3編となります。
なお、この「東京の都市づくり通史」は、公益財団法人東京都都市づくり公社のホームページでも見ることができるようにいたしました。WEB上ではその特性を生かして、検索機能を使ってご覧いただけるように工夫してあります。
ぜひ一度、公社のホームページ http://www.toshizukuri.or.jp をご覧いただきたいと思います。

この「東京の都市づくり通史」は、公益財団法人東京都都市づくり公社が企画・出版を行っていますが、この企画の実現にあたっては、鹿谷崇義(元東京都副知事)、成戸寿彦(元東京都技監)、上野淳(首都大学東京学長)、池邊このみ(千葉大学大学院園芸学研究科教授)、現役の東京都技監・都市整備局長そして私と東京都都市づくり公社理事長からなる編さん委員会が編成され、通史発刊の目的やその取りまとめのあり方、通史の全体構成、取り上げるべき主要な都市づくりの話題などについて議論を行いました。
また、それぞれの分野の専門家である20名の東京都のOBの皆さん(p.266)には「執筆編さん協力者」としてご参画いただき、各分野の都市づくりの変遷を具体的にどのように整理して伝えるべきか、オーラルヒストリーをどういう体制でどのように具体化するかなどをご検討いただくとともに、オーラルヒストリーの運営とその後の原稿執筆も含めて多大なるご協力をいただきました。そしてそれぞれの分野で活躍をされてきた数多くの東京都OBの皆さん(p.266)のお力添えを得て、13分野別のオーラルヒストリーを計14回にわたって開催することができました。なお、公社はこれまでも東京に関する様々な資料を収集整理して(約15,000冊)、資料室で一般の方にも公開してきましたが、今回は学会誌などを通じて広く資料の収集を働きかけ東京の都市づくりに関する数多くの資料の補強が行われました。加えて現在の東京の都市行政の状況を確認するために、現役の東京都職員の皆さんにも素稿の段階で目を通していただいています。
こうした7年にわたる詳細かつ膨大な作業は、事務局を構成した日本大学理工学部土木工学科の大沢昌玄教授ならびに吉野ゆう子さん、(株)プランニングネットワークの伊藤登さん、岡田一天さん、内藤充彦さん、そして長きにわたって担当された田代正人さんをはじめとする公社スタッフの皆さんの努力によってまとめ上げられました。さらに原稿と様々な写真や資料のレイアウトは、(株)新建築社の皆さんの協力によって実現しています。
ここに関係されたすべての方々の努力に改めて感謝を申し上げたいと思います。

数多くの方々が関わる東京の都市づくりであるからこそ、この通史の編さんにあたっては多方面にわたる体制づくりや多くの方々の協力が不可欠であり、ここに無事発刊できたことはこれまで東京が培ってきた「都市づくりの組織力」の賜物であると感じています。
これからも東京の都市づくりはとどまるところがありません。
次の時代を担う若い方たちに、数多くの熱い想いを持った先輩方がいたこと、そしてその努力の上に今の東京があり、これからも次の東京を導く「夢を描く力」と「計画を実現する努力」が引き続き求められていることを少しでもお伝えすることができれば、関係者一同、これに勝る喜びはありません。
次の時代、次の100年の東京の都市づくり、東京のさらなる進歩に期待したいと思います。